傾度風はどっちが強い
farmer fさん(2013/06/24)からの質問です。
低気圧中心から離れるほど遠心力は小さく、傾度風速は大きいということですがこれは正しいのでしょうか?
風速は中心に近いほうが大きい、というのと矛盾しませんか?
傾度風は低気圧性循環よりも高気圧循環のほうが強い
「傾度風」は、低気圧と高気圧で向きは逆になるが、「気圧傾度力」「コリオリ力」「遠心力」の作用結果として決定されます。
気圧傾度力が同じであれば、高気圧の方が傾度風は強くなります。
低気圧性循環の傾度風は、低気圧の内側と外側でどちらが強いか。
では、低気圧の気圧傾度が全域で一定だとしたら、下図の
- A点(低気圧の中心に近い内側)と、
- B点(中心から離れた外側)では、
どちらの傾度風が強いでしょうか。
「低気圧の中心に近いA点が強いに決まっているだろう」
という、思い込みは一旦、心に収めて、次の図を見てください。
半径が小さいと、角速度が大きいので、遠心力は大きくなります。
低気圧性循環の傾度風は、
- (1)気圧の傾きによって気圧傾度力が与えられる
- (2)傾度風の速度と半径rによって、遠心力が決まる。
- (3)バランスを合わせるようにコリオリ力が決まる。
- (4)「気圧傾度力」=「遠心力+コリオリ力」となるまで、(2)に戻って傾度風が調整される。
- (5)最終的に、傾度風の強さははコリオリ力に比例する。
この理論では、遠心力のマイナス作用によって中心に近い内側のA点の風が弱いことになります。
我々の実感とはかけ離れたものですね。
台風では、中心に近いほうが風が強いに決まっています。
こんな理屈は間違っているのでしょうか。
気圧傾度が一定な台風は存在しない
風の強さを気にする低気圧といえば、台風です。
前提条件として与えられた、気圧傾度が一定な台風など自然界には存在しないのです。
図を示します。
左が、上の理論で使った模式低気圧の断面構造ですが、中心まで一定間隔の等圧線で描かれる台風など現実にはありません。
実際の台風は、右図のように、中心に近いほど気圧傾度が大きくなる構造になっているのです。
中心付近の気圧傾度が大きいと、傾度風の速度はどうなるのでしょうか。
遠心力によるマイナス効果を補っても足りないほどにA点の気圧傾度力が大きければ、コリオリ力が大きく働き、B点よりも傾度風が大きくなるのです。
実際の台風では、このような構造によって、中心近くの風が強くなっているのです。
試験問題では現実には起こりにくい条件での設問があるので、常識にとらわれない理論的な判断が必要になることも多いです。
特に一般知識では、盲点を突く意地悪な問題が増えているので注意しましょう。