温度風を徹底的に解説する

温度風の理屈が分からないという質問を繰り返し受けています。

なかなか説明が面倒なので、先延ばしにしていましたが、今回、重い腰を上げて、解説記事を作りました。

地衡風を知る上で重要な因子として、『温度風』がありますがこれがなかなか理解が難しいのです。

一見分かった気になっている人が多いのですが、実は原理を聞くと何だかよく分からないけど、「とにかく気温が高い方が右側だよ。」なんて、乱暴な答えが返ってきます。

一般気象学【第2版】の145ページ~146ページに説明がありますが、これを読んで理解できる人は少ないと思います。

少なくとも私は、このページを読んでもしばらくの間は、何を言いたいのかさっぱり分かりませんでした。

そこで、自分が分からなかった反省を踏まえて、少々しつこいくらいに徹底解説をします。

落ち着いて読んでください。
必ず理解できます。
動画解説もつけます。(制作中)

温度風の関係

地衡風の原理

温度風は、地衡風の一つの形態なので、まず地衡風を理解する必要があります。

しかし、温度風の本質ではないので、ここは軽く流しますよ。

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★一般気象学【第2版】から抜粋★

 要約すれば風は等圧線に平行に、北半球では低圧部を左側に見るように(南半球では高圧部を左側に見るように)吹き、その速さは式(6.16)で与えられる。このような風を地衡風という。(141ページ)

気圧差がある平面においては、気圧傾度力に比例する強さの地衡風が吹きます。

平均気温の差で気圧傾度が生じる

何らかの原因で気圧傾度力が発生すると、地衡風が吹くことがわかりました。

気圧傾度が発生する原因は幾つかありますが、南北で平均気温の差があると気圧傾度が生じます。

下図のような大気を考えてみましょう。

20161205d

北側よりも南側の平均気温が高い大気を想定します。

平均気温が高いと、空気が軽い(密度が小さい)ので、層厚が厚くなります。
⇒ 層厚あついは空気が軽い、空気が軽いは暖かい

例えば、赤道付近の対流圏界面は17kmほどの高さですが、極地方では10km以下だったりします。

さて、北半球のある領域で、地上が水平で北側と南側の地上気圧が同じだったとします。
ここで、南側の方が平均気温が高いとすると、図で示したように層厚があつくなり等圧面の高さに傾きが生じます。

この傾きが気圧傾度力を作り出します。

ここで、同じ高度、例えば高度5000mの南側の気圧は、上層に乗っかっている空気量が多いので、北側の気圧よりも高くなるのです。

気圧傾度があれば地衡風が吹く

気圧傾度が生じれば、地衡風が吹きます。

北半球では、高圧側を右手に見て、低圧側を左手に見て吹きます。

図示すると、こんな具合になります。

20161205c6

北半球では、高圧部を右側に見て吹くので、西から東への偏西風になるのです。
⇒ 偏西風、右手に赤道暖かい

上の図では、南北が上下逆になっていますので、気をつけて見てください。

北半球では、中緯度領域での偏西風の原因の一つになっていますが、南半球ではどうでしょうか。

コリオリ力が逆なので、南半球では高温部を左手に見る風が吹きます。

ちょっと考えると逆向きの東風になりそうですが、実は北半球と同じく西風なのです。

と言うのは、気温が高い赤道が北側にあるので、これを左手に見ると、逆の逆は正ということで、やっぱり西風なのです。

ちょっと意外ですね。

一般知識のひっかけ問題にでそうですよ。

途中の層はどうなっているか

上層にいくほど気圧傾度が大きくなるので、上層では地衡風として強い西風が吹いていますが、途中の層ではどうなっているでしょうか。

上半分を取り除いてみましょう。

20161205cj

地衡風の強さは、気圧傾度力に比例します。

上層を半分取り除くと、中間層の気圧傾度力は半分になりますから、地衡風も小さくなります。

この様子を示すために、大気を4分割して剥がしてゆくアニメを作ったのでご覧ください。

ondofuanime

大気が剥がされていくたびに、気圧傾度が小さくなり、地衡風も小さくなります。

温度風の関係

このような関係を『温度風の関係』と言います。

★温度風の関係★
  • 平均温度の水平傾度があると気圧傾度が発生する
  • 北半球では、高温部(高圧部)を右側に見て地衡風(偏西風)が吹く
  • 気圧傾度は高度とともに大きくなるので、地衡風も高度とともに増大する

さて、ここまでで、気づいたことがあります。

『温度風の関係』と言う表現を使っていますが、『温度風』という風はありませんね。
温度風の関係で吹いているのは、地衡風であり温度風ではありません。

温度風のベクトル

『温度風の関係』は理解できましたね。

次に、しばしば『温度風』そのものと誤解される『温度風のベクトル』の説明に移ります。

ホドグラフ

高度の異なる風の成分をベクトルで表現(矢印の方向と長さ)して、地上に投影した図を『ホドグラフ』と言います。

20161205f

温度風のベクトル

ホドグラフの風の先端を、下層から上層に向けて矢印を描くと、これが『温度風のベクトル』になります。20161205j

温度風のベクトルは、温度風の関係の地衡風と同じように、北半球では、高温部を右手に見る性質があります。

『温度風のベクトル』のことを、しばしば『温度風』と表現されることがありますが、実際にこの風が吹くわけではありません。
あくまでも、計算上のベクトルのことなのです。

時計回りは暖気移流

上の状態を図示すると、こうなります。

20161205h

この図の場合は、実際の風は、下層の風も上層の風も暖気側(高温側)から寒気側(低温側)に吹いているので暖気移流があることになります。

風向が、上空に向けて時計回りに変化していると暖気移流だと言われる現象です。

なぜ、こうなるかというと、南側が高温部であれば、温度風の関係で上層には強い地衡風が西から東に吹いています。
すると、850hPaで南南西の風が吹いていても、高度上昇とともに西風の成分の影響を受けて、時計回りに変化するのです。

反時計回りは寒気移流

時計回りが暖気移流は分かりましたが、反時計回りの場合はどうでしょうか。

20161205i

850hPaで北西の風、700hPaで西北西の風を想定してみましょう。

上空に向かって、風向きが反時計回りに変化していますね。

温度風のベクトルは、緑の矢印のようになります。

緑の矢印の右側が高温部なので、南側がピンクで北側がブルーです。

実際の風は、寒気側(低温部)から暖気側(高温部)に吹いているので、寒気移流になります。

何故こうなるのかを考えてみましょう。

南側が高温部であれば、上層には西からの強い地衡風が吹いているはずです。
すると、高度上昇とともに、西風の成分の影響を受けて、反時計回りに風が変化するのです。

したがって、高度上昇とともに風向きが反時計回りに変化すると、寒気移流であると言えるのです。

南寄りの風で反時計回りならどうなる

今までの例は、850hPaの風が南南西だから暖気移流、あるいは850hPaの風が北西だから寒気移流で当たり前だと思うでしょう。

では、現実には起こりにくいのですが、南寄りの風で反時計回りのシミュレーションをしてみましょう。

20161205k

850hPaで西南西、700hPaで南西の風で、ともに南寄りの風ですが、反時計回りです。

温度風のベクトルの右が暖気側、左が寒気側の図を描くと、実際の風は寒気側から暖気側に吹いているので、寒気移流なのです。

北寄りの風で時計回りならどうなる

では、逆に北寄りの風で時計回りの変化を検証してみます。

20161205l

850hPa で北西の風、700hPaで北北西の風なので、時計回りの変化ですね。

描かれた温度風のベクトルの右側が暖気、左側が寒気ですから、北寄りの風でありながら暖気側から寒気側に吹いているので、暖気移流なのです。

いずれの場合も、上空へいくほど、温度風の関係による地衡風の成分を与えられるので、このような結果になります。

まとめ

これほど丁寧な(しつこい)温度風の資料はあまり見かけません。

きちんと読んでいただければ、疑問は解消できると思いますが、質問があれば、

北上大へのメールフォーム からお寄せください。

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