第39回専門知識 問3
ドップラーレーダーの基本
ドップラーレーダー観測では、レーダーに近づく風の成分と、レーザーから遠ざかる風の成分を観測します。
気象庁のレーダーチャートでは、近づく成分を寒色系で、遠ざかる成分を暖色系で表現しています。
ドップラー速度ゼロとは
ドップラー速度がゼロとは、寒色と暖色が接している部分のことです。
多少の凹凸は無視して速度ゼロラインを結ぶと、問題のチャートに下のような「S字」の形が浮かび上がりました。
この中から、2つの箇所(a)と(b)に着目してみましょう。
(a)は、簡単ですね。
レーダーの上を、一方向の風が吹いている状況です。
ドップラー速度ゼロのラインに直行する風、つまり北北東から近づいて来た風が、レーダーの真上を通過して南南東へ遠ざかっている様子です。
レーダーの真上を通過する瞬間は、ドップラー速度がゼロになります。
下の図に白い矢印で示しました。
(b)は、どんな風でしょうか。
レーダーから西に35km付近に『ドップラー速度ゼロ』のラインがあります。
ここでは、上の図のように、南東の風と北東の風がぶつかっているのでしょうか。
反対方向からの風が正面衝突して速度がゼロになるなんてことはありません。
『車は急に止まれない』
と言う標語がありますが、空気こそ急には止まることができません。
ドップラー速度がゼロになるのは、レーダーの上空を通過する以外には、レーダーに対して直角方向に吹く風なのです。
直角方向とは、レーダーを中心とする円を描いたときに、その円の接線方向になりますね。
でも、レーダーに対して直角に吹く、接線に沿った風の方向は「時計回り」か「反時計回り」かの2種類があります。
どうやって判断したら良いでしょうか。
図示して見ると簡単です。
上の図で分かるように、接線上の風は時計回りでも反時計回りでも
『寒色エリア(近づく)⇒暖色エリア(遠ざかる)』
に向かって吹くことが分かります。
そうすると(b)の風は、レーダーに直角で寒色から暖色に向かって、と、こうなりました。
ここまで状況が解明できれば、この問題は解けたも同然です。
問題図のドップラー速度ゼロラインの上に、接線の風ベクトルを描いてみましょう。
らせん状のドップラー速度ゼロ・ラインが、S字の形に沿って北側と南側にあるので、両方に矢印を描きました。
どちらも、レーダーからの距離が遠くなる(高度が高くなる)に連れて、風向が時計回りに変化しています。
しかも、レーダーからの距離が同じ場所(同じ高度)の矢印は、南北で同じ方向の風であることに気が付きます。
上の図では、分かりやすいように対になる風を同じ色にしています。
例えばレーダーから15kmほど離れた北と南の2つの地点(高度1km)では、どちらも東風(水色の矢印)になっていますから、その間に挟まれたレーダーの上空1kmでも、水色の東風が吹いていると推測できます。
他の色(高度)においても同様なことが言えますので、レーダー上空では、風向は高度上昇に連れて時計回りに変化していると判断して良いでしょう。
ここまで問題点を整理すれば、答えは簡単です。
(a)は、半径10kmの円形なので0.8kmだと思うのですが、1.2kmでも微妙なところです。
ここは、一旦、保留にしておきます。
(b)は、上の図の中央部の『白矢印』ですから、正解は『北北東』ですね。
これで、選択肢は[1][2][4]のいずれかに絞込ました。
(c)は、悩むことなく『鉛直シア』です。
低気圧性循環の場合は、レーダーチャートの一部で渦状のチャートが観測されるはずです。
この図には、そのような渦は観察されません。
これで選択肢は[1][2]に絞り込みました。
(d)高度上昇に連れて、風向きが時計回りに変化しているので『暖気移流』です。
というわけで、正解は[2]です。
(a)が「0.8km」か「1.2km」か悩みましたが、自動的に「0.8km」に決まりました。
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