大気の安定とは

風船はどこまで上がる


空気の温度が高くなれば密度が小さくなり、軽い空気になる。

軽い空気なら、ふわふわと上昇するはずだ。

地上付近が30℃で、960hPa (地上約50m)から上空は、10℃で均一な大気があったとしよう。(現実にはありえないが)

地上付近で、シャボン玉のような超薄膜で作られた張力も質量もない風船があるとして、これに水蒸気を含まない乾燥空気を詰めて空に放したとする。

30℃の空気は、10℃の空気より軽いので、浮力が発生してふわふわと上昇してゆくはずだ。

さて、どこまで上がるだろうか?

水蒸気を含まない乾燥空気だから上昇するに連れて、乾燥断熱線に沿って温度が下がるはずだ。

30℃から、26℃→21℃→18℃→15℃→10℃と、高度とともに、どんどん温度が下がって、10℃になる高さ、780hPa(地上2200m)付近まで上昇するだろうか。

20150103g1
残念ながら、そうはならないのだ。

なぜなら、この超薄膜風船は、保温機能がないので、上昇すると、外気温によって同じ温度まで冷却されてしまう。

だから、960hPa付近で、外気温と同じく10℃になり、浮力を失ってそこで上昇を止めてしまうことになる。

外気温を10℃一定と仮定したが、20℃でも5℃でも、一定ならばそこで浮力を失ってしまう。



では、次のような階段状の大気があったらどうだろうか。

上と同様に、張力がなく質量もない超薄膜の風船に、水蒸気を含まない30℃の乾燥空気を詰めて、上空に放す。

20150103g2
階段状の気温というところに無理があるので、その領域の平均気温ということにして、実際の気温はなだらかに気温が下がっていることにする。

さて、30℃の風船は、周囲の大気よりも軽いので浮力を発生してふわふわと900hPa まで上昇した。このとき、風船の温度は乾燥断熱線に沿って23℃まで低下する。

20℃大気の中央付近まで上昇したとき、大気で冷却されて風船の温度が周囲と同じく20℃まで冷やされる。

20℃からさらに上昇すると、800hPaで11℃になるが、外気温5℃より風船の方が温度が高いのでまだ浮力がある。

ここで、5℃の大気に冷やされて、風船の温度が5℃まで冷やされる。

さらに、乾燥断熱線に沿って上昇しようとするのだが、700hPaではマイナス5℃になってしまい、外気温よりも低いので浮力が生じない。外気温よりも風船内の温度が低くなるので800hPa付近で上昇を停止する。

と、まあ、こんな動きになるはずだ。



では、どんな条件のときに風船が上昇して、どんな条件で上昇を停止するのかを考えてみよう。



風船の気温減率と大気の気温減率を比較するために、次の図を使おう。
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黒色の直線で示したのが、大気の温度、つまり大気の状態曲線である。

同時に、1000hPaから900hPaまで風船が上昇した時の乾燥断熱線をピンクの線で表示した。

状態曲線の気温減率(気温の傾き)よりも、風船の気温減率が小さいので風船内の温度は大気よりも暖かい。暖かいということは、軽いので浮力を発生して上昇するわけだ。

次に900hPa付近を見ると、やはり、オレンジ色で示した風船の中の空気が周囲の大気よりも暖かいので風船は上昇する。

では、800hPa付近を見てみよう。状態曲線の傾きが、水色で示した風船の気温減率よりも立っているので、風船よりも大気の方が暖かい。風船の方が冷えてしまうので重くなり浮力は発生しない。

順調に昇ってきた風船は、800hPa付近で上昇を停止して、この辺でふわふわ漂っていることになる。



ここまでの情報を整理してみると、大気の状態曲線の傾きが、風船の気温減率よりも寝ているときに、風船が上昇している。風船の気温減率は、「乾燥断熱線」なので、言い換えれば

大気の状態曲線が乾燥断熱線よりも寝ているときに、風船が上昇すると言える。



実は、風船が上昇する現象は、温度差による大気の上昇流を意味しており、対流活動が発生している様子を示しているのだ。



風船が上昇しないで動かない状態を、空気の動きがないので「大気が安定」していると言う。

逆に、風船が浮力を持って上昇する状態を、大気が不安定だと表現する。

まとめてみると、状態曲線が「乾燥断熱線」よりも寝ている状態では、風船が上昇する。つまり対流活動が発生して、大気の状態が不安定であるといえる。

逆に、状態曲線が「乾燥断熱線」よりも立っていると、風船が上昇出来ない。つまり空気が動かないので、大気が安定であるという。

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ここまで、エマグラムを使って、大気の安定と不安定の基本的な説明をした。

しかし、これまでの説明では、説明を単純化するために、水蒸気を含まない乾燥空気について話を進めてきた。

水蒸気が絡んでくると、話が違ってくるので、それは別項で解説する。


湿潤大気の風船


「風船はどこまで上がる」の項で、乾燥空気に関する安定と不安定の考え方を説明した。

ここでは、湿潤空気について考えてみよう。

前と同じように、超薄膜で張力も質量もない風船を仮定する。

今回は湿潤空気を対象とするので、風船内部で凝結して液体になった水は、ただちに風船の外側に出て行ってしまうという条件をつける。



大気が飽和している条件下で考えるのだが、乾燥空気の場合と同じで、気温が高ければ、比重が軽いので浮力を発生して風船は上昇する。

飽和している環境なので、上昇すると「湿潤断熱線」に沿って気温が下がる。

これの繰り返しだ。

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上の図でいえば、地表面から700hPa付近までは、湿潤断熱線よりも大気の状態曲線が寝ているので、連続的に浮力を発生して、風船が上昇する。

しかし、700hPaより上層になると、風船の温度が大気温よりも低くなってしまうので上昇が止まる。

湿潤空気に対しては、地上から700hPaまでは大気が不安定であるといえる。


条件付不安定とは


次の図は、湿潤大気での風船の上昇を説明したときに使用した図だ。

20150103g5
湿潤大気における風船は、湿潤断熱線に沿って気温が下がり、大気温よりも温度が高ければ浮力を生じて、風船は上昇するし、風船の温度が大気温より低くなるようなら、上昇を止めてその高さで漂う。

上の図の解釈では、大気が飽和している状態なら、700hPa辺りまで風船が上昇する。つまり、700hPa付近まで大気の状態は不安定である。



では、同じ温度分布の大気で、乾燥していたらどうなるだろうか。

それを示したのが下の図である。

20150103g7
上とまったく同じ大気温度(状態曲線)なのだが、乾燥空気を対象とするので、風船の気温減率は乾燥断熱線に沿っている。

すると、風船は900hPaまで上昇するが、それより上層には行けないことになり、この大気は、900hPaまで不安定だが、900hPaより上層は安定であることになる。



そうすると、乾燥状態の大気(不飽和)では安定だが、湿潤状態の大気(飽和)では不安定になる層があることになる。

同じ状態曲線に、乾燥断熱線と湿潤断熱線の傾きを重ねてみた。

茶色が乾燥断熱線で、グリーンが湿潤断熱線の傾きである。

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1000hPa~900hPaでは、グリーンのラインよりも茶色のラインよりもも、状態曲線が寝ているので、飽和していても不飽和でも大気は不安定である。これを『絶対不安定』という。

900hPa~800hjPaおよび800hPa~700hPa の領域は、グリーンのラインよりは寝ているが、茶色のラインよりは立っている。つまり、乾燥している大気(不飽和)では安定だが、湿潤な大気(飽和)では、不安定である。このように、大気の湿潤状態で安定か不安定か分かれる状態を『条件付不安定』という。

700hPa~600hPa では、湿潤断熱線よりも立っているので、飽和、不飽和に関わらず大気は安定である。これを『絶対安定』という。

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「条件付不安定」とは、

・未飽和の大気なら安定

・飽和している湿潤大気なら不安定

である。


安定層を探せ


次のような状態曲線の大気がある。

この大気状態の中で、安定層はどこか。

20150103ga
このグラフの折れ目の箇所に「湿潤断熱線」と「乾燥断熱線を」当てはめてみると次のようになる。

20150103gb
黒色の状態曲線が、ブルーの絶対安定領域にあれば「安定層」である。

オレンジ色の絶対不安定領域にあれば「不安定」であり、その中間の無色の領域なら「条件付不安定」となり、「安定層」とは言わない。

答えは、「800hPa~700hPa が安定層」である。

前項までの例に使った「風船がどこまで昇るか」を考える

・未飽和の乾燥大気であれば、900hPa までしか昇らないが、

・飽和している湿潤大気であれば、800hPaまで上昇することになる。



では、次の図では安定層はどこだろうか。

20150103gc
850hPa~800hPaの領域で、状態曲線が右に傾いている。

上空の方が気温が高い現象で、通常はありあえないのだが、特殊な気象条件発生する「逆転層」である。

逆転層については別項で解説するが、きわめて安定な層である。


状態曲線


エマグラムのグラフ用紙上に上空の気温をプロットした図を状態曲線という。

通常は、気温情報とともに、湿度情報として露点温度がプロットされる。

たとえば、こんな図である。

20150103gd
この図を見ると、地表付近の気温が12℃で露点温度が10℃が読み取れ、計算によって湿度が87%であることが分かる。

やや寒いけれども、過ごしやすい気候である。

また、上空に渡って乾燥しているので雲の発生がなく、気温減率が立っていることから大気は安定状態にあるので、よい天気なのだろうと推定できる。



次の図はどうだろうか。

20150103ge
地表の気温は14℃で露点温度は12℃、相対湿度88%である。

地表から680hPaまでほぼ湿潤で、特に800hPaから700hPaの層は飽和しているので、おそらく下層雲で空が覆われていることだろう。しとしとと雨が降っているかもしれない。

地上から680hPaまでの気温減率(状態曲線の傾き)は、「湿潤断熱線」よりも寝ており、「乾燥断熱線」よりも立っているので「条件付不安定状態」にあるといえる。
露点温度から判断して、この層の大気は湿潤であるので、大気は不安定(上昇流が発生しやすい状態)にある。要は、天気が悪くなる。

680hPa~650hPaに上下の気温が逆転している逆転層がある。

逆転層はきわめて安定な大気状態なので、雲は出来ない。これより上は、非常に乾燥しており、上層雲は発生していないだろう。


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