第46回学科、専門知識、問2(a)の『3次元速度ベクトル』に関して、二人の方から同じような質問をいただきました。
『3次元速度ベクトル』とは、一体何のことでしょうか、って。
3次元速度ベクトルは秘密兵器ではありません。
サンジゲンソクドベクトル
ものすごく難解な、理系の工学的専門用語なのか?
あるいは、中高度地対空ミサイルとかトルネード・ランチャーとか、無反動バズーカとか、よく分からないけど秘密兵器かと思ってしまいます。
『3次元速度ベクトル』その言葉の響きにビビってしまって、この問題が分からないということです。
そこで、『3次元速度ベクトル』の解説をします。
『3次元速度ベクトル』は2つの成分に分解できます。
『3次元』と『速度ベクトル』です。
『3次元』とは、立体空間のこと
1次元は、幅を持たない直線上の出来事を表します。
このアリは、東か西へしか進めません。
1次元の世界では、幅がないのです。
2次元は、幅がある平面の世界が広がります。
東と西だけではなく、南北への広がりがあります。
3次元は、高さを含めた立体空間のことです。
アリは空を飛べないので、トンボを使います。
3次元とは3Dのことです。
まったくヒットしなかったけれど、一時期『3Dテレビ』がもてはやされましたね。
映画『アバター』から大ブームになった、3Dは立体視のことでした。
『3次元速度ベクトル』の3次元は、『立体的な』くらいの翻訳が適当だと思います。
そうすると 『立体的な速度ベクトル』
と言う表現になり、少しは、馴染みやすくなったと思いませんか。
(まだ、無理か)
3次元は立体空間の状況を意味する言葉です。
具体的に雲の分布について考えてみましょう。
『東京の北西部に雨雲があります。』
この表現は、
- 1次元の表現でしょうか
- 2次元の表現でしょうか
- 3次元の表現でしょうか。
平面の地図を広げて話をしている状況ですね。
高さがないから、2次元の表現です。
では、
『関東の西北西50kmには、上空1200mに雨雲があり、その上3000m付近では強い寒気を伴った雷雲があります。』
これは、平面に加えて、高さの情報が盛り込まれているので立体的な3次元の表現です。
『速度ベクトル』は『移動情報』程度の意味です。
速度ベクトルは、専門的に突っ込んでいけば偏微分まで駆使する奥の深い分野ですが、ここでは『移動情報』と置き換えて良いと思います。
そうすると『3次元速度ベクトル』は『立体的な移動情報』になりますから、もはや、秘密兵器の面影はなくなりましたね。
『移動情報』と対比できるのが『位置情報』です。
1次元の位置情報と移動情報
東京の東側10kmに小さな雨雲があります。
東京の西側50kmに大きな雨雲があります。
単純に、東西方向の位置情報を伝えているので、1次元位置情報です。
東京の東側20kmから雨雲が近づいています。
単なる位置情報ではなく、雨雲の移動情報を伝えています。
これは、『1次元速度ベクトル』です。
2次元の位置情報と移動情報
東京の北東30kmに大きな雨雲
北西20kmと西20kmに小さな雨雲があります。
平面地図上で、雲の分布を示している2次元位置情報です。
東京の西20kmにある小さい雨雲は東京に近づいています。
北西20kmにある小さい雨雲は北東方向に遠ざかっています。
北東30kmの大きな雨雲は南東方向へ遠ざかっています。
平面上で雲の移動情報を示している『2次元速度ベクトル』です。
3次元の位置情報と移動情報
絵が難しいので省略します m(_ _)m
3次元位置情報は立体的な空間の情報です。
『3次元速度ベクトル』は、立体的な空間での移動情報を示します。
ここまでの説明で理解していただきたいのは、1次元でも2次元でも、あるいは3次元でも、
「位置情報」(分布)よりも「移動情報」(速度ベクトル)の方が、情報量が多いということです。
観測装置の能力によっては、分布(位置情報)は観測できても、速度ベクトル(移動情報)は観測できない場合があります。
ドップラーレーダーで得られる情報の限界
気象庁の『気象観測の資料』67ページをご覧ください。
一番下に『風の三次元分布を観測』と書いています。
『三次元分布』つまり、『立体的な位置情報』は観測できるのです。
しかし、移動情報(速度ベクトル)は、「レーダーに向かって吹く風」と「レーダーから遠ざかる向きに吹く風」しか分かりません。
つまり、3次元の位置情報は分かりますが、速度ベクトルは1次元の観測しか出来ないのです。
レーダー波を水平に回転させることによって、計算上は2次元のマップを作りますが、上下方向の情報がないので3次元の速度ベクトルは得られません。
こうして、第46回学科、専門知識、問2(a)は『誤』であると判断できるのです。